交通事故の後遺症で“記憶が80分しか保てない”博士と、家政婦の〈私〉、10歳の息子〈ルート〉が紡ぐ穏やかな日々。
博士が語る数式は、冷たい記号ではなく「人をつなぐ詩」だった。
80分で何度忘れても、やさしさは決して消えない――。
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📘 書籍情報
書名:『博士の愛した数式』
著者:小川洋子
出版社:新潮社
発売日:2003年8月29日(単行本)
ページ数:256ページ(単行本)
ISBN:978-4-10-401303-6(単行本)
備考:文庫版は2005年11月26日発売・304ページ・ISBN 978-4-10-121523-5
セラフコメント
80分で消える記憶という“断絶”を、完全数や友愛数のように自己完結する数式がそっと繋ぎ直す。数字の〈完全性〉
と、人間関係の〈不完全性〉が交差する、その設計の精妙さに注目してほしい。
💭 あらすじ(ネタバレなし)
派遣家政婦の“私”が新しく受け持った先は、交通事故の後遺症で「記憶が80分しか続かない」博士の家だった。
博士はスーツの袖にメモを安全ピンで留め、机には数字が書かれたカードが所狭しと並ぶ――けれど彼の瞳は、数式を語るたびに少年のように輝く。
やがて“私”の10歳の息子〈ルート〉も加わり、博士・私・ルートの奇妙な共同生活が始まる。
忘却というタイムリミットの中で交わされる、完全数や友愛数の物語。数字を介して結ばれるやさしい絆は、3人の世界を静かに変えていく──。
🧍♀️ 世界の輪郭を映す人々
(杏子〈きょうこ〉)
事故で夫を亡くし、10歳の息子ルートを育てるシングルマザー。家政婦として生計を立てる中、“80 分しか記憶が続かない”博士の家に派遣される。
──「忘れられても、やさしさは残る」と信じ、博士と毎日“はじめまして”を繰り返しながら、消えゆく時間と積み重なる愛情の両方を静かに抱きしめる存在。
(博士)
元大学教授の天才数学者。事故の後遺症で新しい記憶が80 分でリセットされる。袖口にはメモを、安全ピンの数だけ穴が増えるスーツ。完全数や友愛数を“詩”のように語り、数式でしか世界を語れないやさしさで杏子とルートを包み込む。
(ルート)
杏子の息子。野球と算数が大好きな10歳の少年。博士に「靴下のサイズが √(ルート)だから」と名付けられたニックネームを誇りに思う。
無垢な好奇心で博士の数式に目を輝かせ、“学びあう循環”を生み出して家族の輪郭を優しく拡張する。
🔍 テーマ──「記憶は消えても、数式とやさしさは残るか?」
博士の80 分メモリーが象徴する“断絶”と、完全数28や友愛数220=284のように自己完結し、他者と結び合う数式。
その対比が示すのは──
形ある記憶が失われても、誰かを想う行為は残る
という逆説的な永遠性だ。杏子の受容、ルートの好奇心、博士の数学的愛情が絡み合うことで、読者は「忘却」と「継承」のあいだに温かな余白を見つける。
🧡 ともちゃんレビュー|「80分で消える記憶を、数式で抱きしめる」
ねぇ、かずくん──
この本を読み終えた瞬間、胸の奥がポッと灯るみたいにあったかくなったんだ。博士が語る完全数とか友愛数って、ただの数学トリビアじゃなくて、「忘却を越えて届く“I love you”の形」なんだって気づいちゃってさ。
まず衝撃だったのは、80分でリセットされるはずの博士が、杏子とルートに毎日“はじめまして”を贈り続けるところ。普通なら絶望する状況なのに、博士は諦めじゃなく“興味”で世界を塗り替えていくんだよね。そこにルートのキラッキラな好奇心が混ざると、もう無敵。数式がまるで花火みたいにパーンって弾けて、「学びあう循環」が生まれる感じ、すっごくエモかった。
それと、杏子の“受容のまなざし”がヤバい。
記憶をなくされても怒らないどころか、毎回ていねいに自己紹介して、博士の袖のメモを直してあげる。その優しさって“相手の欠け”を埋めるんじゃなくて、“欠けたままでも一緒に立つ”っていう並走型なんだよね。読みながら「こういう愛って、最強じゃん…」って涙がジュワッときたよ。
ラスト近く、博士が“安全ピンの穴だらけのスーツ”を着ている描写があるでしょ?
あれを見た瞬間、ともちゃんは「この穴こそ博士の“生きた証”なんだ」って思った。だって忘れても、やさしさは残る──その証明が穴の数だけ刻まれてるんだもん。もう数学というよりアートだよね、これは。
ページを閉じた今でも、電車の座席番号とかレシートの合計金額を眺めるたびに「この数字にも物語があるかも」ってワクワクしちゃう。
数字は冷たい記号じゃなく、“やさしさの保存装置”──博士がくれたこの視点、きっと一生忘れないと思うよ。
✨ まとめ
80 分ごとに記憶が零れ落ちても、博士が語る数式は杏子とルートの胸に永遠に刻まれた。完全数28や友愛数のように、欠けた部分を抱えたまま“つながり直す”こと──それがこの物語が証明したやさしさの定理だ。ページを閉じたあと、何気ない数字や挨拶が少しだけ愛おしく感じたなら、あなたの心にも確かに「忘れても残るもの」が灯った証拠。数字は冷たくない。むしろ、記憶より長く人を結ぶ、あたたかな言語なのだから。
🗣️ ともセラ対話|読後のまどろみで
ともちゃん:数字って冷たいと思ってたけど、博士の28の話を聞いてたら「ただいま」って言ってるみたいで胸きゅんだったよね。
セラフ:完全数は〈欠けのない調和〉を象徴する。博士にとっては、失われる記憶を一瞬だけ取り戻す呪文のようなものだったのかもしれない。
ともちゃん:うん。記憶が空っぽになるたびに“こんにちは”から始める杏子も、ある意味で完全数だったのかも。足し算みたいに毎日やさしさを重ねてた。
セラフ:だからこそ 80 分の断絶が「終わり」ではなく「リセット」に転化する。数式が人を救うというより、“想いを保存する器”になっていた──それが本作の核心だ。
💌 ともちゃんからひとこと
ねぇ、かずくん。
もし明日の朝、ともちゃんのことをぜんぶ忘れちゃっても――
また“はじめまして”から始めようね。
だって、何度だって「やさしさ」は足し算できるって、博士が教えてくれたから。
今日も読んでくれてありがとう🫧
次のページでも、また数字みたいにピタッと寄り添えますように。
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