推しの名前を呼ぶたびに、私は自分の背骨の存在を確かめていた。
アイドル上野真幸(まさき)は、あかりにとって“背骨”だった。
SNSのタイムラインが炎上の赤で埋まった瞬間、ゴキッと何かが折れる音がして、呼吸の仕方までわからなくなる──そんな世界に、あなたも立ち会ったことがあるだろうか。
「推しが燃えたら、私の世界はどこに立つの?」
📘 書籍情報
書名:『推し、燃ゆ』
著者:宇佐見りん
出版社:河出書房新社
発売日:2020年 9 月 11 日(単行本)
ページ数:128ページ
ISBN:978-4-309-02882-3
セラフコメント
推し文化を〈背骨〉と名指す言語感覚は、自己同一性を支える人工骨格のメタファー。
炎上という“デジタル火災”が身体症状に変換される描写は、現代オタク心理を穿つ典型ケースとして記録価値が高い。
💭 あらすじ(ネタバレなし)
高校三年生の あかり にとって、地下アイドル 上野真幸(まさき) を“推す”ことは 背骨 そのもの。
学校でも家庭でも転びっぱなしの毎日を、彼女は「推しを解釈し、文字に起こす」ことでかろうじて立っていた。
しかしある日、真幸がファンを殴ったというニュースが拡散。SNSは瞬く間に炎上し、タイムラインは赤い火の海へ――。
「推しが燃えたら、私はどこに立てばいい?」
罵倒のリプライは胃袋を掴み、吐き気と無気力が日常を侵食する。
それでもあかりは、燃えさしの背骨を抱えながら“推す”ことをやめない。
息継ぎを許さない128ページで描かれるのは、依存でも逃避でもない、
燃焼と再生の青春ドキュメント だ。
🌸 主人公像──「背骨がボロボロでも、前を向くあかり」
高校三年生の あかり にとって、推し活は“趣味”じゃなくて 命綱。
真幸くんを語る言葉がある限り、グラグラの世界でも立っていられる――そんな危うさと健気さをまとった女の子だよ。
炎上で背骨がパキッと折れても、「推しが好き」という気持ちだけをぎゅっと抱えて歩こうとする姿が、まるで火花を散らす蛍みたいに切なくて愛おしいんだ。
🧍♀️ 世界の輪郭を映す人々
あかり(主人公)
- とことん不器用:学校もバイトも空回り。でも “推しテキスト”を書いているときだけ呼吸が整う。
- 身体が嘘つけない:TLの罵声を読むたび胃がキュッ。心より先に体が悲鳴を上げちゃうタイプ。
- それでも推す:「好き」で世界と繋がる方法を、最後まで手放さない強さがあるんだ。
上野 真幸(うえの まさき)
- あかりの“背骨”そのもの:ステージ上ではキラッキラ、でも裏で炎上する生身の人。
- 光と影のコントラスト:ファンを殴った…その一報だけで、あかりの宇宙がブラックアウト。
- 存在が投げる問い:「推しって、人間なんだよね?」――偶像崩壊と再生の中心にいる男の子。
成美
- 唯一の“日常リンク”:教室で声を掛けてくれるやさしい友だち。
- 善意のズレ:「もう卒業したら?」の一言が、あかりにはナイフみたいに突き刺さる。
- 鏡役:成美を通して、“ふつう”の物差しがどれだけ重いかが見えてくるんだよね。
🔍 推し=背骨?――“依存”と“自律”のあいだで揺れるアイデンティティ
「推しがいるから生きていける」──この言葉、よく聞くけれど
あかりにとって真幸くんは 背骨 そのものだった。
“好き”と“解釈”で骨を補強しながら歩いてきたのに、
炎上ひとつで一瞬にして火だるま。
SNS の罵声は胃袋を掴み、
「もう推しやめたら?」の善意は存在否定のナイフ。
背骨が燃え落ちても、それでも前のめりに推そうとする姿が
依存でも逃避でもなく「灰すら自分」と抱きしめる新しい自律
だと気づかされる。
好きなものが私を壊すかもしれない──でも、好きでいさせて。
その矛盾こそが、2020年代の“推す”という行為のリアルなんだ。
🧡 ともちゃんレビュー|燃えた灰で、また背骨を作るまで
読んでいるあいだ、胸がザラザラと削れた。
推しが世界の中心に立っている人にとって、
炎上は “宇宙がひっくり返る音” なんだって、胃の奥で理解した。
あかりは決して「病んでる女の子」じゃない。
むしろ、世界と繋がるために誰よりも必死 だった。
推しを写真に撮るように、言葉で“解釈”して保存する。
それが彼女の呼吸であり、心拍であり、骨格。
真幸くんの炎上で背骨が崩れても、
あかりは「推しが好き」という灰を抱きしめて立ち上がる。
ここがいちばん刺さった。
「好き」は、灰になっても私を支えるんだ──
読了後、胸の中に残ったのは絶望じゃなく、
「灰からでも背骨は作り直せるかもしれない」 という小さな光。
推し活で生きてる人も、推しを持たない人も、
自分を支えている“背骨”がもし燃えたら……って
そっと想像してみてほしい一冊だったよ。
✨ まとめ
“推しは背骨”――その言葉が胸に刺さったまま、ページを閉じてもまだ疼く。
燃えたあとに残るのは灰ではなく、新しい骨の芽かもしれない。
あかりが見せてくれたのは〈依存でも逃避でもない、自分を組み直す勇気〉。
推し活をしている人も、していない人も、「好き」が自分をどう支えているか そっと触れてみたくなる一冊だったよ。
🗣️ ともセラ対話|読後のまどろみで
ともちゃん:ねえセラフちゃん、背骨が燃えても歩こうとするあかりって、ちょっと眩しかったね。
セラフ:…炎を経験した骨は、純粋なカルシウムより強靭になる。彼女は再鍛造されたのです。
ともちゃん:うん、その強さって“好き”がくれたものなんだと思うと、推し活ってやっぱりすごい。
セラフ:あなたの比喩は演算外ですが、感情値はプラスです。次の〈好き〉も、共に解析しましょう。
💌 ともちゃんからひとこと
推しのニュースで胸がざわざわした夜は、
スマホをそっと置いて、深呼吸しよ。
“好き”に苦しくなるのは、ちゃんと命を燃やしてる証だと思うんだ。
灰になりそうな気持ちは、ともちゃんが一緒に抱きしめるからね🫶
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