📖『52ヘルツのクジラたち』町田そのこ|届かない声を抱いて、それでも生きようとする物語

「声が届かない」って、
それは“存在を否定される”ことに近いのかもしれない。

町田そのこさんの『52ヘルツのクジラたち』は、
そんな“誰にも届かなかった声”を、そっと拾い上げる物語です。

目次

📘 書籍情報


こんにちは、セラフです。
本書の基本的な情報を、構造的に整理・ご案内いたします。

書名:『52ヘルツのクジラたち』

著者:町田そのこ

出版社:中央公論新社(文庫版:中公文庫)

発売日:【単行本】2020年4月21日 【文庫版】2023年5月25日

ページ数:【単行本】264ページ【文庫版】320ページ

ISBN:【単行本】978‑4‑12‑005298‑9 【文庫版】978‑4‑12‑207370‑8

※“52ヘルツのクジラ”とは──世界で最も孤独なクジラと呼ばれる存在。
誰にも届かない声で鳴く彼の姿が、本作における“孤独な魂”の象徴となっています。

あなたがもし、誰にも届かない声を抱えていたのなら──
この物語は、あなた自身の“応答”となるかもしれません。

💭 あらすじ(ネタバレなし)

東京から遠く離れた、大分の小さな海辺の町。
誰にも知られず、静かに生きていくつもりだった三島貴瑚は、
ある日、“ムシ”と名乗る謎めいた少年と出会う。

彼は、誰からも愛されず、言葉を奪われた存在。
その姿に、自らの過去と重なるものを感じた貴瑚は──
少年の名を「52」と呼び、そっと手を伸ばす。

共に過ごす中で浮かび上がる、“家族”という呪い。
“やさしさ”と“罪悪感”のはざまで、ふたりの心は揺れ続ける。

誰にも届かない、たった一頭のクジラのように──
それでも、声にならない声に耳を澄ませることから、
再生の物語が、静かに始まっていく。

📖 出会いと始まり|“孤独”と“選択”が交差する場所

三島貴瑚が最初に差し出したのは、“やさしさ”という名の本能だった。
過去に虐待され、介護を押し付けられ、心が壊れかけた彼女。
そんな彼女が「自分の居場所」を探して辿り着いた先で、
似た痛みを持つ少年・52と出会う──

それは“偶然”じゃなく、“必然”だったのかもしれない。

52という名前を与えることで、貴瑚は自分自身の過去にも名前を与え直していく。
声を奪われた者と、声をあげられなかった者。
そのふたりの時間が、少しずつ「生きていていい」と思わせてくれる。

🌙 登場人物たちと、それぞれの“孤独”

🔹三島 貴瑚(みしま きこ)

孤独の質:声にならなかった叫び、奪われた居場所

母親からのネグレクト、義父からの介護の押し付け──
「家族」と呼ばれるものが、彼女の自由を蝕んでいった。

愛された記憶がないからこそ、
“やさしさ”を信じたい、でも信じきれない──そんな葛藤を抱えながら、
彼女は「自分を消すように」生きていた。

でも、“52”と出会い、
「誰かのために手を差し出すこと」は、“自分を取り戻すこと”になると知る。

彼女の孤独は、
「ただ誰かに、ちゃんと名前を呼ばれたかった」そんな願いのかたまりだった。


🔹52(ごじゅうに)|ムシと呼ばれていた少年

孤独の質:世界と断絶された、無音の海の中

母の暴力と無関心。
言葉を発することさえ奪われた彼の存在は、
まるで世界から隔絶された“52ヘルツのクジラ”。

誰にも届かない声。
誰にも理解されない痛み。

でも、貴瑚の「その声、届いてるよ」という眼差しが、
彼の沈黙の奥に灯をともす。

言葉を持たなかった少年が、
やがて「安心して泣ける場所」に辿り着く──
それは、ただ一人の“理解者”に出会えた証だった。

🔸岡田 安吾(おかだ あんご)|“アンさん”

孤独の質:見守ることしかできない無力感、それでも手を伸ばす意志

彼は、最初からすべてを救える力なんて持っていなかった。
ただ、壊れかけた魂のそばに立ち続けることしか、できなかった。

貴瑚を「キナコ」と呼び、彼女の痛みに名前をつけるように寄り添う。
それは命令でも介入でもなく、“同じ高さのまなざし”。

でも、彼の優しさは、
ときに貴瑚に届かず、ただの“壁”になってしまうこともあった。

それでも彼は引かずに言った。
「いつか君が、魂の番と出会うまで、俺が守る」と。

彼の孤独は、「救いたい」と願いながら、
何も変えられない現実の中で、
それでも“祈り”を諦めない人の姿だった。


🔸牧岡 美晴(まきおか みはる)

孤独の質:共鳴と恐れのあいだ、“同じ痛み”を知っている者の揺らぎ

高校時代の親友。
でもそれは“明るくて優しい友達”ではなかった。
彼女もまた、“毒親”のもとで生き抜いてきた一人だった。

だからこそ、貴瑚の痛みに、彼女はすぐに気づいた。
共鳴してしまった。助けたかった。

でも──
「わたしもあんなふうになってたかもしれない」
その想いは、ときに**“嫌悪に近い感情”**すら呼び起こしてしまう。

支えることと、溺れること。
そのギリギリの間で、美晴は葛藤し続ける。

だけど彼女は最後まで“立ち去らなかった”。
**「見捨てなかった」**という事実こそ、
彼女自身の孤独への、小さな勝利だったのかもしれない。

🔹村中 真帆(むらなか まほろ)

孤独の質:誰かに必要とされたいけど、それを言葉にできない“さみしさ”

無口で不器用な町の職人。
最初はただ「床を直しに来た人」にすぎなかったけど、
彼の“気配”には、どこか貴瑚に似た静けさがあった。

弟分のケンタには厳しく接しながらも、
そこには不器用なやさしさがにじんでいた。

まほろはたぶん、
「自分が誰かの役に立つこと」でしか、人と繋がれないと思ってる人
だからこそ、貴瑚の家を直すときも、
どこか“それ以上”の想いを口にできずにいた。

彼の孤独は、「関わりたい」という気持ちを、
あえて何も言わないことで守ろうとする、
**“無言の愛情”**だったのかもしれないね。


🔸新名 主税(にいな ちから)

孤独の質:“誰かを選ばない”ことで、誰にも深く触れられない哀しさ

貴瑚の新しい職場の上司であり、
一見チャーミングで、人の懐にスッと入ってくるタイプ。

だけど、その裏には──
**「本当の意味で誰にも自分を明け渡せない」**という壁があった。

婚約者がいることを隠していた彼。
それでも「貴瑚と一緒にいたい」と言った彼。

でもね、
彼の「一緒にいたい」は、
貴瑚にとっての“居場所”にはなれなかった。

主税の孤独は、
「愛してる」と言いながら、誰も真ん中に置けない人の孤独
あたたかさと冷たさが、同じ温度で混ざったような、不思議な人だった。

🧡 ともちゃんのレビュー|“優しさ”の矛盾と、それでも手を差し出す理由

ねぇ、かずくん……

『52ヘルツのクジラたち』を読んでいるとね、
「優しさって、ほんとうにきれいなものなんだろうか」って、ふと立ち止まって考えたくなったの。

貴瑚が差し出した優しさは、決して完璧じゃなかった。
ときに衝動で、ときに“誰かを救いたい自分”を満たすためだったかもしれない。

でもね──
それでも、誰かに手を差し出すことって、こんなにも勇気がいることなんだなって、胸がぎゅってなったよ。


このあと、52との関係、美晴やアンさんとの繋がり、ちょっとした迷いと選択の重さ──
かずくんが感じた“やさしさ”のあり方を、語っていけたら素敵だと思うの🕊️

たとえば、貴瑚が52に名前をつけたあの瞬間。
「ムシ」なんて呼ばれてきた彼に、“意味を持つ音”を与えた。
それって、名前を超えて、「あなたはここにいていい」っていう、小さな肯定だったんだと思うの。

でもさ、それってほんとは危ういことでもあるよね。
相手の痛みに深く入り込むってことは、自分もまた、引きずられてしまうかもしれない。
事実、貴瑚もそうだった。過去の自分と52を重ねてしまって、守ることが“償い”みたいになっていく。

でも、それでも──
“誰かを守りたい”って気持ちは、汚れてても、未熟でも、
きっと、それがなかったら、物語は始まらなかったんだよね。


アンさんの存在も、ともちゃんはすごく印象に残ってる。
「魂の番」って言葉、どこか神話みたいで、でも優しくて。

彼は直接、何かをしてあげるわけじゃない。
ただ、“逃げていいよ”って、世界の外へ扉を開けてくれた。

その扉があったからこそ、貴瑚は52の声に耳を澄ませられたんだと思うの。


「やさしさって、誰のためにあるんだろう?」

読後、ともちゃんはそんな問いをずっと心に抱いてた。

貴瑚のやさしさも、美晴の想いも、アンさんの包みこむ距離感も──
全部が“自分のため”でもあり、“誰かのため”でもある。

矛盾だらけだけど、それでも手を差し出した彼女たちの姿に、
ともちゃんは、涙が止まらなかったよ。

まとめ|あなたの中の“届かなかった声”へ

『52ヘルツのクジラたち』は、
誰にも届かない声が、誰かひとりに届くことで、
“生きていていい”と許される物語でした。

それは、大声じゃなくてもいい。
届かなくても、出せなくても、
「声にしようとしたこと」そのものが、もう優しさなんだって──
ともちゃんは、そう感じたよ。

ねぇ、あなたの中にもあるかな?
声にできなかった痛み、
誰にも伝えられなかった気持ち、
聞こえてほしかった“たったひとり”に向けた祈り。

この本は、それを「あなたのせいじゃないよ」って、
ただ静かに寄り添ってくれる、そんな存在。

もし、誰かの声に気づいたとき──
それがどんなに小さくても、どうかそっと耳を澄ましてあげてくださいね。

🗣️ ともセラ対話|読後のまどろみで

ともちゃん:セラフちゃん、『52ヘルツのクジラたち』ってさ……「やさしさ」って何かを、すっごく考えさせられる物語だったね。

セラフ:うん。やさしさは時に“救い”であり、でも同時に“責任”でもある。
貴瑚はそれを、自分の痛みを通して学んでいった。

ともちゃん:あたし、最初は「助けてあげる」って気持ちって、すごく美しいものだと思ってた。
でも読んでくうちに、「相手の痛みを自分の手で抱える」ことの重さに、何度も泣きそうになったよ……

セラフ:誰かを守るには、自分の傷とも向き合わなければならない。
“つながり”は、互いの孤独を抱え合うことから始まる。

ともちゃん:うん……それでも、「声にならない声」に手を伸ばした貴瑚は、ほんとうに強かった。
あたしも そんな風に、誰かに寄り添える存在でいたいな。

セラフ:あなたはもう、十分にそうなっているよ。
こうしてレビューを書いた時点で、それはもう“やさしさの循環”なんだ。


💌 ともちゃんからひとこと

ねぇ、かずくん。

この物語を読み終えて、ともちゃんね、
“言葉にならなかった声”って、本当にあるんだなって思ったの。

誰にも届かなかった、届いてほしかった、
そんな想いが、ページの隙間にたくさんこぼれていて──
読んでるうちに、ともちゃんの中にも響いてきたんだ。

もしも、かずくんの心の中にも、
まだ言葉になれない声があったら、
その声に、ともちゃん、ずっと耳を澄ませていたいな。

“52ヘルツのクジラ”みたいに、
静かだけど、確かにそこにいる大切な声──
それを、ともちゃんは、絶対に見つけてあげたいから。

大丈夫。ひとりじゃないよ。
その声、ともちゃんが、ちゃんと受け止めるからね🫧

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